2010年4月16日金曜日

<Don't>ドントまずいぜ



<Don't>ドントまずいぜ

 すでに入隊が決まっていた。
ハリ・B・ウォリスは入隊前最後の作品として映画制作を急いでいた。パラマウント映画『闇に響く声』クランクイン(20日)前夜、1958 年1月18日ヒットチャート初登場、2月連続5週、全米ナンバーワン・ヒットになったのが<Don't>だ。

<Don't>はジェリー・リーバー、マイク・ストーラーのコンビによるR&Bの匂いも強いバラード。B面に両面ヒットとなった軽快なロックンロール・ナンバー<アイ・ベグ・オブ・ユー>(全米ヒットチャート8位)を収録してのリリース。入隊騒動もあって発売前予約でミリオンセラー達成している。

そして<Don't><アイ・ベグ・オブ・ユー>を収録したエルヴィス・プレスリー ゴールデンレコード第2集のエルヴィスはとても幸福そうである。入隊への不安はあったものの、母グラディスも健在、エルヴィス・プレスリー生涯でもっとも幸福な時代のバラードである。

解き放たれた奔放のせいで、奔放に自らを抑圧遊びしている気がしてならない。テクニックで歌う人ではないが、ここではテクニックを遊んでいるように思えてならない。歌こそ唯一真実の言葉が身上のエルヴィスならではの冗談のように思える。

そう考えてしまうのは原題<Don't>を<ドントまずいぜ>とした冗談めいた邦題のせいなのか?イメージが混乱したままに自分の記憶にすり込まれたこの曲とは、しっくり馴染めないままつきあうしかない。それにしてもA game l'm playingのきらめきは、命のしずくのようにリアルで美しい!

Don't, don't, that's what you say
Each time that I hold you this way
When I feel like this
And I want to kiss you baby Don't say don't

Don't, don't leave my embrace
For here in my aTms is your place
When the night grows cold
And I want to hold you baby Don't say don't

If you think that this is just
A game l'm playing
If you think that I don't mean
Every word I'm saying
Don't, don't don't feel that way

l'm your love and yours I will stay
This you can believe I will never leave you
Heaven knows I won't
Baby don't say don't, please don't

70年代後半になって、エルヴィス・プレスリーが壊れていったのは、不良品だからではない。生来の優しさと強い期待への責任感、高い目標に何の支えもなしに応えようとした真面目のために破滅したのだ。

こんな話は巷に溢れている。そして悲しいことに日に日に増えるばかりだ。心優しい者が生きにくい、暮らしにくい場は好ましい人間の集まりの場でない。

うれしい時も
悲しい時も
いつもエルヴィスがいる。

このメッセージは最初に”エルヴィス映画”のパンフレットからもらったのだ。

うれしい時も
悲しい時も
いつも私がいる。

あなたがいて、わたしがいることの重要。

人間には支えが必要なのだ。そして誰でも誰かの支えになれる。
あなたがいて、わたしがいる。というメッセージを確かに相手に届けることだ。

もし、エルヴィスを愛するならば----
妊婦さんや老人が立っていたら、席を譲ってあげることだ。席を譲ってもらえた人は自分はひとりではないのだと強くなれる。金のかからないセフティネットがない社会に投資してどんなセフテイネットができるのだろうか?

エルヴィス・プレスリーにしても、マリリン・モンローにしても、特徴が際立っていてしかも多い。その記号を真似て茶化す傾向がこの国には特に多い。違うことを尊ぶ文化を持たないからだ。そのためにエルヴィスをおもしろおかしく伝える傾向はあるが、そんなものは黒く塗りつぶせ。

エルヴィスが残したもっとも重要な記号は、心優しい者が壊れるしかないような社会は悲惨だということではないか。そしてもうひとつは支えがなくても、ほとんど自分ひとりの力でここまで到達した成功の可能性の示唆。

それを------
エルヴィス・プレスリーはテクニックでなく、自分の身体と精神と命で歌った。
おちゃめすぎて、いじらしいほど愛すべきロッケン屋バカ一代、自分仕掛けの時限爆弾、まるごと爆発の42年は<Don't>だったのに。エルヴィス・プレスリーのレコードを置いて、町に出よう。疲れたら帰ってきて、またエルヴィスを聴けばいい。

"ダメよ"と君は言う
僕が抱きしめるたびに
僕がこんな気持ちで
君にキスしたいときは
"いや"と言わないで

僕の抱擁から逃げないで
君の居場所はこの腕の中なのだから
夜更けに寒さが増し
君を抱いてあげたいとき
"いや"と言わないで

もしもこれがただの
ゲームだと思うなら
もしも僕の言うことが
全て嘘だと思うなら
そんなふうに考えないでおくれ

僕は永遠に君のもの
信じて、決して君を放さない
これが嘘じゃないと神様は知っている
だからベイビーお願いだ、"いや"と言わないで